なんつってな
  • 月と博士

月と博士 (白泉社文庫)

月と博士 (白泉社文庫)

坂田靖子」という人の作品を読むきっかけになった本です。坂田さんの名前は知ってはいたんですが(バジル氏シリーズで)、実際読んだことはなく、きっとこの本に出会わなければ読むこともなかったのでしょうが…。タイトルに惹かれ、思わず手にとって読んだ「月と博士」(これは文庫だけど、私が読んだのはもう少し大判のヤツだったような)が、あまりに私の好きな類のお話であったので(常軌を逸しているにも関わらず普通に淡々としている現実世界から少しずれたお話)、それ以来本を見つけては購入している作家さんです(発行している単行本が多すぎて把握しきらない)。
しかし、大判を購入することには少しためらいを感じてしまった為、坂田さんの他作品は購入したものの、この原点である「月と博士」は手に入れておりませんでした。白泉社で文庫が出ているのを知った時には嬉しかったです、そして早速購入したと言う次第。

この人のお話は本当に不思議な、非日常が日常的に描かれているものが多いです。だから以下に紹介するものが「???」となって受け付けられない場合はちょっと読むのは辛いかも。


「風景が窓ガラスにはりついてちゃいけないそうです
 それに8分音符や俳句が庭に生えているのもいけない」


「取締りが厳しくなりましたね」


「しかたがありませんよ 時の流れです
 少し前まで 暖炉から汽車が出てきても 何も言われなかったけれど
 今では 暖炉は火が燃えるための場所になってしまいましたし…
 この先 手袋が窓から飛び込んでくることもないでしょうね」


           「窓ガラス/月と博士」 坂田靖子

この話の最後のオチは、個人的に凄く「素敵だ!」と思ってしまいます。割れた窓ガラスに夕焼けを見て、星が出てきたのに見入る主人公。そんな淡々とした調子がフェードアウトし、彼はいつの間にかベッドの上で。医者が「君はずっと景色は窓ガラスに貼り付いていると言っていたんだよ/窓ガラス」といい、彼は「まさか/窓ガラス」と言う…そんな所で終わっています。つまり「正常な世界」に帰ってきたのですが、彼は「異常な世界」での素晴らしい体験を見事に忘れているのです。少なからず「残念だな…」と思わせるところが怖い。
他にも、「ヒコーキ」という話が好き。四角い箱のような胴体をしている…っていうか多分箱に顔と手足がくっついてるだけみたいな感じのエリック氏が、ヒコーキと戯れご飯を食べる話。上以上に「?????」となること請け合いですが、結構ああいう空気が好きです。

そして坂田さんは、そういった不思議でホノボノするお話と、もう一つ、上流階級の空気漂うお話も書かれます。何だろう、凄くミステリアスな会話が繰り広げられるような、ちょっとシリアスな話。


「会ってしまうと ”語る”ことなんかどうでもいい気がする
 でも別れると 何も”語ら”なかったことが悔やまれてしかたがないんだ――」


           「手紙/月と博士」 坂田靖子

これはとても印象的な台詞です。しかも今の私の気持ちにもよく当てはまります。誰かに会いたい、会うのは何かを話したいから。でも、実際に会うと話なんてどうでもよくなる。そうだったはずなのに、また離れてから、「アレを話せばよかった」と後悔する感じ。そのまんま、うつしたみたいな気持ち。こういう不思議な、ふっと身に迫るような感覚を覚えさせる、しかも結構淡白な絵をお書きになるので(笑)特に。本当、興味がおありでしたらどこかでどうぞ。悲しいけど、古本屋にもあると思う…一冊くらいは。それで空気を味わってみて、合うようでしたら是非。




最近イライラしてしまうことが多くて、イライラをもてあまし気味で、ついタイトルのような気持ちになってしまいます。気になり始めるとどうにもならないから、あんまり気にしないようにしようと思うんだけども…ダメですね、きっと自分の一番気にしている所を言われているからかもしれない。受け止めるべきなのを、時間のなさを理由にしているだけな気がします。
こんなだからか、今は特に、色んな人と話をしたい。自分の知らないことを知っている人なんかは特に。実際に話して、何かを語りたい。何か、って言うのはないけれど。別に怒りや不満をぶちまけたいわけでもない…気がするけど。

不思議な状態です。